こんにちは。(株)リンクアンドモチベーションの小笹芳央と申します。弊社は「モチベーション」をテーマに組織変革・経営コンサルティングを手が けております。このwisdomでは、「モチベーションエンジニアリングによる企業革新」という連載を書かせていただきました。今回より、「モチベーショ ン・リーダーシップ」と題して、全12回にわたり連載をスタートさせていただくことになりました。連載の中では、リーダーに求められる基本的スタンス・ア クションや、「モチベーション」を切り口とした実践的なリーダーシップの考え方やノウハウをご紹介したいと思います。
(1)リーダーシップとは
組織を活性化し、変革し、組織の競争優位を確立するためには優れたリーダーシップは欠かせません。だからこそ、成果を上げ注目を浴びる組織については、必 ずリーダーの言動も取り上げられます。ここでは、リーダーシップについて主に「モチベーション」を切り口に論じていきたいと思います。リーダーシップにつ いては、さまざまに論じられていますが、私はリーダーシップを「ある一定の目的に向けて人々に影響を与え、その実現に導く行為」と定義しています。そのこ とから、モチベーションや影響力という観点を中心に置くことが、実践的な内容になると考えているからです。
私はこれまでに多く のリーダーたちと向き合ってきました。リーダーたちは、組織のために真剣に苦悩しています。そして孤独です。私はそんな彼らの悩みを聞き、コンサルタント としてリーダーシップの実現を支援してきましたが、そのような経験を積み重ねた結果、次の4つの結論を導きました。
リーダーシップとは、「ある一定の目的に向けて人々に影響を与え、その実現に導く行為

1 点目は、リーダーシップは、内部環境であるメンバーや外部環境であるマーケットの相互作用であること。そう捉えると、リーダーシップだけを単独で切り離し て、「正しいリーダーシップとは」という問いは成立しません。リーダーとして求められるのは、内部のメンバーの現状に即した「リーダーシップ」であり、か つその時のマーケットに即した「リーダーシップ」であるという、内外の環境に順応した「適切なリーダーシップ」なのです。
2点目は、「適切なリーダーシップ」を発揮するための原理原則が、間違いなく存在することです。リーダーを取り巻く内外の環境は、一定の法則に従って変化します。リーダーシップの原理原則とはこの環境に適応していくことだといえるでしょう。
3 点目は、リーダーシップは、天性の資質で決まるものではないことです。リーダーシップはスキルなのです。つまり、スキルを「磨くか、磨かないか」の問題と 捉えることができます。今後、この連載でも原理原則の一部を紹介していきますが、その原理原則を知り、実践で鍛えれば、そのスキルは確実に伸びるでしょ う。「自分はリーダーに向いていない」「リーダーになるタイプではない」という弱音は、スキルを開発することを放棄する言い訳に過ぎないのです。
4 点目は、リーダーシップは、立場や役割を越えた行為であることです。ある状況下で、ある目的を達成する為にリーダーシップを発揮する人がリーダーであり、 「マネジメント」とは異なるニュアンスを含んでいます。変化が激しく、先行き不透明な時代においては、マネジメントよりも、リーダーシップが求められるの です。
以上の4点を踏まえ、今回の連載では、まずはリーダーに求められる普遍的な原理原則・基本スタンスからお話ししたいと思います。今回は、そのうちリーダーシップの大前提となる、「アイカンパニー」という考え方と、「ビジョン」を掲げること2点についてお話します。
(2)リーダーは「アイカンパニー(自分株式会社)」の経営者というスタンスをもつ
優れたリーダーは、強い自立心をもっています。優れたリーダーに共通する点は、自分自身をひとつの「株式会社」に置き換え、その経営者のように、日々経営努力を積み重ねてエクセレント・カンパニーを作ろうとしているところです。
前回の連載「モチベーションエンジニアリングによる企業革新」の第7回でも解説いたしましたが、これから「個人」が主役の時代になるうえで、「アイカンパニー」という考え方が求められるようになるのです。その理由を3つのキーワードから簡単に説明いたします。

1つ目のキーワードは「寿命」で す。つまり、企業組織の寿命が個人の寿命よりも短くなったことが挙げられます。昔であれば、平均年齢60歳という時代に100年、200年という歴史を 持った老舗の存在は珍しくありませんでした。しかし、現在は企業組織の栄枯盛衰が激しく、一方で個人の寿命は80歳以上に延びています。
このことから、「自分より寿命の短い企業組織や特定の集団に依存し、自らの人生を預けるような生き方はリスキーである」という考え方が広がってきたのです。誰もが、会社や組織に依存することなく、自立的に人生を切り開く必要が高まってきました。
2つ目のキーワードは「二極化」で す。二極化とは、言い換えれば、「選ばれるもの」と「選ばれないもの」がはっきりする、ということです。右肩上がりの経済成長期のように、誰もが一定の成 長を享受できるのは過去の時代です。経済が成熟期に入り、本当に価値のあるもの、魅力的なものだけが選ばれる時代になったのです。その必然的な結果として 二極化時代がやってきたのです。
企業や商品が勝ち組や負け組に二極化するのと同じように、これからは個人レベルでも「必要とさ れる者」と「不要の烙印を押される者」の二極化が起こります。同じ企業内においても、年収格差はどんどん広がるでしょう。同期入社でも年収の格差が2倍、 3倍になるという現象も珍しくなくなるのではないでしょうか。個別企業を超えた労働市場ではもっと露骨であり、年収2,3千万円クラスのヘッドハンティン グは既に当たり前です。これからは、「自分自身が市場から求められる存在」「選ばれる存在」であり続けるための継続的な努力が、万人に求められることにな ります。
3つ目のキーワードは「IT化・ソフト化」です。戦後復興期の主役は「業界」でし た。「○○業界に勤めている」というのがステイタスになった時代です。高度経済成長期に入ると、「企業ブランド」時代が到来します。個別の企業が経済成長 を支えた時代です。そして現在、IT化や経済のソフト化傾向が更に強まる中、個人ごとの成果格差が大きいタイプの業務が、大半を占めつつあります。もはや 企業ではなく、「個人」が主役になって価値を生み出す時代になったのです。
以上の3つの環境変化によって、現在は、各人の創意工夫あるいは努力次第で、夢や希望を実現できる状況が生み出されています。
このように考えると、リーダーシップとは、アイカンパニーを設立して、その共感者を創造し、目標に向かって導くことに他なりません。リーダーシップの第1 歩として、「アイカンパニー」の考え方があるのです。リーダーは、以上のような「アイカンパニーの経営者」というスタンスを持たなければならないのです。
社会や組織に依存して、自ら何も決定できない、リスクをとろうとしない、何かの問題があると環境や組織や他人のせいにする、そんな人材は絶対にリーダーシップを発揮することはできないのです。自己責任意識のないリーダーにメンバーはついていかないからです。
多くの優秀なリーダーとの出会いを通して、私自身は、ここで述べた「アイカンパニー意識」が、優れたリーダーシップの大前提にあることを確信しています。 これを読んでくださっている皆様、本連載からリーダーシップについてなんらかのヒントを得たいとおもっていただけましたら、まずはアイカンパニーを経営し てみてください。リーダーシップの技術を考える前に、自分の会社をどのような会社にしたいのか、どんなビジョンを掲げるのか、自社の競争優位性は何か、と いうアイカンパニーの定款を考え、経営計画書を策定することが重要なのです。
(3)リーダーシップにはビジョンが大前提
次に、アイカンパニーの意識を持ったリーダーが持たねばならないものにつ いてお話したいと思います。それは、「ビジョン」です。リーダーシップの大前提にあるものは、人々を導き束ねる「ビジョン」なのです。そもそも、リーダー シップを「ある一定の目的に向けて人々に影響を与え、その実現に導く行為」だとすれば、ビジョンも目的もなく他者に影響力を発揮しようとしても、人々を惑 わせるだけに終わってしまいます。掲げられる旗を無くして、周囲のメンバーが安心してついていくことはできません。
リーダー シップを発揮して、人々のエネルギーを引き出したい、そして自分一人の力では実現不可能なことを成し遂げたいと願うなら、自らのビジョン(実現したい未来 図)を明確に掲げること、そして人々の共感を得るように努めなければなりません。人々はそのビジョンに共感して、同じように実現したい未来図を見ることが できる場合に、リーダーを支持し、リーダーについていく気持ちになるのです。将来の夢、計画、構想を持たないリーダーに、人々は自分達のかけがえのない大 切な時間を投資することはできないのです。逆に、リーダーが掲げる明確なビジョンに心から共感できるとき、人々はその目的に向けて惜しみない努力をするも のです。リーダーは自らのビジョンを示し、その実現したい未来図によってメンバーを束ねる。これがリーダーに必須の条件だと思います。
ではそのビジョンはどのように生まれるものなのでしょうか。
それは、外部のコンサルタントによって示されるものではなく、他のリーダーを模倣することから生まれるものでもありません。他人から示されたもの、借り物のビジョンには魂が入らず、結果的に単なる言葉の羅列という中身の無いものに終わってしまいます。
周囲の人を魅了し、人々のエネルギーを引き出すような迫力のあるビジョン。それは例外なく、リーダー自身の「内的経験」から来るものです。あなた自身が、 これまでの人生のさまざまな体験を通して何を感じたか、いつ・どこで・どのように喜び、楽しみ、哀しみ、怒りを感じたのか、その中にビジョンを創るヒント が、潜んでいるのです。
あなたの体験はもちろんあなた独自のものですが、その独自の体験の中にも、他の人々が持つ願望や不満と いった感覚と共通するものがあり、人々の共感を呼ぶ要素が含まれているものです。ですから、リーダーがビジョンを示したときに、人々の中にある過去に感じ た潜在的な意識が呼び覚まされて、そこにリーダーへの支持や共感の情念が生じるのです。
リーダーシップを発揮したければ、 自らの体験を通して自身に沸きあがった感覚=「もっとこんな世の中にしたい」、あるいは「業界の発展にはこんな変革が必要だ」などの問題意識を材料とし て、人の心を動かす魅力的なビジョンを描くことに注力することです。 それが、人々を束ねるビジョン、人々の拠り所になるのです。
次に、リーダーシップにとっていかにビジョンが重要であるかを裏付けるために、「人はどのような要素に惹かれて自分が所属する集団を決めるのか」について 触れたいと思います。人が所属(帰属)集団を決める'決め手'は、心理学の助けを借りて要約すると、次の4つの要素に分けることができます。

第一の要素は、組織の活動内容=事業や仕事内容の魅力です。事業の社会的影響力や意義、仕事内容への適性や仕事の醍醐味などの側面が、人間の企業選択や職業選択に大きな影響を与えることに、異論はないでしょう。
第二の要素は、組織を構成する人の魅力や組織風土の魅力です。組織が人間の集まりである以上、どんな人達とどのような雰囲気の中で過ごすのかという点は、人が組織や仕事を選ぶ「決め手」となることが多いものです。
第三の要素は、待遇やその他の条件の魅力です。自分が提供する貢献行為の見返りとして組織から受け取る給与などの待遇が、大事な要素であることは疑う余地がありません。「提供する貢献行為=待遇」というバランスが大きく崩れた場合、その人は、遅かれ早かれ組織から離れることを決意するでしょう。
そして第四の要素が、組織が掲げるビジョンや理念の魅力です。「事業や仕事内容の魅力」「人や組織風土の魅力」「待遇や条件の魅力」に加えて、組織として達成したい夢やビジョンという側面が人々の帰属集団の取捨選択に及ぼす影響力は、計り知れないぐらい大きいものがあります。
戦後のモノ不足の時代は、エンゲル係数が40%を超え「食べるために働く」時代でした。その頃と違い、現在は多くの人々が、人生の意味や意義を問い始める 豊かな時代になり「ビジョンへの共感」という要素の重要度が近年高まっていると言えます。人は自分の存在や活動の意味を求め、その意味によって自分の日々 を支えたいという欲求を持つものだからです。
実際にはこれら4つの要素が相互に影響を及ぼし合う中で、人はどの集団に所属する か、自らの貢献行為をどこで誰に捧げるかを総合的に判断します。しかし、4つの要素の中でも「ビジョン」に関しては別格で扱いたい要素です。なぜなら、 リーダーからビジョンを提示されて初めて第一の要素として説明した「組織の活動内容」=「自分のやりたい仕事内容」に目覚めることはよくあることですし、 明確で共感度の高いビジョンを語るリーダーの人としての魅力が高まり、第二の要素である「組織を構成する人の魅力、組織風土の魅力」が担保されるからで す。
さらに、「ビジョンへの共感」そのものが、場合によっては第三の要素、待遇や条件を凌ぐ可能性もあります。人間にとって、ビジョンへの強い共感状態は、組織から受け取る金銭報酬と同等か場合にとってはそれ以上の「報酬」となり得るからです。
ビジョンを掲げる大切さは理解していただけたかと思いますが、それでは、リーダーはビジョンをどのように描き、どのように伝えればよいのでしょうか。たと えば、「5年後に○○億円の売上を目指す」というのは、ビジョンではないでしょう。これは単なる組織の活動量を数値化したものに過ぎません。大切なのは、 ○○億円の売上を達成することによって何を成し遂げたいのか、どんな状態を生み出したいのか、という未来構想図です。
「社会の 中でどのようなポジションを取りたいのか」「どのような社会貢献を行いたいのか」「業界をどういう姿にしたいのか」「顧客にどのような価値を提供したいの か」「今とは違うどのような価値ある機能を担っているのか」などへの回答を、ビジョンに盛り込まなければなりません。
さらに、 優秀なリーダーはそのビジョンを簡潔に伝えることができます。「あなたのビジョンは?」と聞かれてすぐに要約して相手に明快に伝え切れなければ、人々の共 感を呼ぶことは難しいでしょう。そのビジョンがどれほど特別な専門知識を要する領域のことであっても、多くの人に共感してもらえるように工夫する必要があ ります。
つまり、ビジョンに求められる条件を挙げるとすれば、まず「わかりやすいこと」が大切です。次に、聞いている側がワク ワクする、心が躍り、自分も一緒に描きたいと思う未来構想図であるかどうかでしょう。人がエネルギーを発揮するのはビジョンへの「理解」や「支持」という レベルを超えた「共感」という状態に達する時です。
たとえ簡潔で明快なビジョンを描いても、それが共感者を生み出すパワーに欠 けていれば、残念ながらそのビジョンが達成される日はやって来ません。優秀なリーダーは、人の心に訴えかける将来構想をリアルに発信します。もしも、描こ うとしているビジョンがこれらふたつの条件を満たさないのであれば、今すぐにビジョンを練り直した方がよいでしょう。
人々を惹 きつけ、人々を束ねるのに、「わかりやすさ」と「共感」をキーワードにしビジョンを策定するために労力を費やすことは、決して無駄にはなりません。「難易 度は低いけれども、わかりにくくて人の心を打たないビジョン」よりも、「難易度はとてつもなく高いけれど、具体的でわかりやすく人々の心を揺り動かすよう なビジョン」のほうが、実際に達成される可能性が高いからです。世界中で知られている成長企業は、必ずわかりやすく、魅力的な、人のこころに訴えるビジョ ンを持っています。また、後世に名を残したリーダーシップを発揮した人々は、その名とともに必ずそのビジョンも語り継がれています。このようなことから も、魅力的なビジョンの策定は、リーダーにとって必要にして不可欠な最優先事項と言えると思います。
また、ビジョンを描くだけ でなく、ビジョンの共有を図る工夫も必要です。いつでも発信し続けることや、常に見える状態にすること、カードやポスターにする「視覚化」も有効です。ビ ジョンを浸透させるためにコミュニケーションコストを十分に割いている組織は、強いものです。ビジョンの実現に繋がる思考や行動が、メンバーにしっかりと 浸透するからです。ビジョンの共有の鍵は、リーダー自身にあります。リーダーが支払ったコミュニケーションコストは、ビジョン実現という大きな果実となっ て十分に取り返せるものであると、私は思っています。
次回も、リーダーに求められる普遍的な原理原則、基本スタンスについて、今回お話したビジョン実現に向けてリーダーが実際にどのような行動をとるのか、などをご紹介したいと思います。
(2007年1月15日公開)
0 件のコメント:
コメントを投稿