2007年2月13日

リーダーシップの条件 メンバーを統率し成果をあげるために II

前回、「リーダーシップの大前提」として、リーダー自身が魅力的なビジョンをもつことの重要性についてご説明しました。ビジョンがなければ、人々を 導いたり、束ねたりすることはできませんが、ただビジョンを掲げただけでは何にもなりません。ビジョンを掲げリーダーシップを発揮しようとするためには、 一定の「成果」が必要なのです。

 なぜなら、成果なきビジョンは「絵に描いた餅」と呼ばれ、そのうち人々を惹き付けることも人々の共感を得ることもできなくなってしまいます。そしてついには、ビジョンの実現も叶わず、リーダーシップは消えていくことになります。

  「ビジョンの実現」に向けて、リーダーは、(1)効果的な戦略を描き、(2)個々の目標を定め、(3)人々を導いて成果を出すことが必要です。このサイク ルがリーダーへの信頼を増幅させリーダーシップを強化させるのです。つまりリーダーシップには「成果」が不可欠なのです。

 リー ダーがリーダーとして有効に機能するための最低条件が、一定の成果を繰り返しあげて、成功の実績を重ねていくことなのです。もし、リーダーシップを継続的 に発揮したいと思うのであれば、誰よりも先に未来構想を描き、誰よりも強く成果に執着し、誰よりも綿密に成果につながる最良の方法について考え尽し、それ を実行に移すべきだといえるのです。

 そこで、最大の問題は、ビジョンを実現させるためにリーダーが実際にどのような行動をとるかといえます。今回は、リーダーシップの条件として、求められる行動について2つの切り口からご紹介したいと思います。

リーダーが直面する5つの葛藤

  まず、リーダーが様々な状況で判断したり行動したりする上で、その選択可能性は無限にあります。リーダーは常に選択という葛藤の場に直面しています。リー ダーシップとは、一定の成果を出すために、互いに相克する対立事項を統合していく芸術的な活動であると私は考えています。今回、すべてのリーダーが直面す る対立事項、乗り越えなければならない典型的な葛藤シーンを5つご紹介します。これらの葛藤への対処の仕方がリーダーシップのスタイルなのです。


■対立事項(1)「効率vs感情」・・・効率のために人のモチベーションを犠牲にしていいのか

 これは、そもそもリーダーが生み出すべき成果とは何であるのかに関連する葛藤です。

 結論から言えば、リーダーが目指す成果は、「組織としての最大効率の追求」と「個々人のモチベーションの極大化」という対立事項の統合によって生み出されるものです。

  ビジョン実現に向けて、リーダーは組織としての最大効率を追及しなければなりません。組織の活動効率を高めるために、有効な戦略を描き、効果的な業務設計 を行い、各人の役割分担を行い、誰が何をいつまでに実行するのかという目標設定、どれぐらい実行するのか、という責任配分を行います。

  しかし、その際にリーダーが「効率」だけを重視すると組織は必ず疲弊してしまいます。なぜなら実際に個々の活動を担うのが感情を持った生身の人間である以 上、個々人のモチベーションの問題を無視できないからです。たとえ短期的な効率を実現しても、それがメンバーの感情側面を無視した方法であれば、次の成果 に向けて再びメンバーから十分なエネルギーを調達することはできなくなります。

 個々人の志向やモチベーションを無視して短期的 な効率追求に走るのか、個々人のモチベーションに配慮してある程度の効率を犠牲にするのか、リーダーの目の前には「組織としての最大効率の追求」と「個々 人のモチベーションの極大化」という対立事項が姿を現すことになります。広い意味での"リーダーの成果"はこの両方の達成度合いで測られるのです。優秀な リーダーは、この相対立する「効率」と「感情」を同時実現する芸術的な手腕を振るっているのです。

■対立事項(2)「受容vs支配」・・・市場にどのように向き合うか

 これは、外部環境への適応に関するリーダーの葛藤です。

  環境への適応(=主に顧客への貢献や顧客ニーズの受容)を意識しながらも、一方で環境のコントロール力(=市場や顧客に対する支配力)を身に付けなければ なりません。顧客貢献や顧客ニーズの受容を軽視すれば組織の存在が危ぶまれる。顧客に対する価値の提供こそが利の源泉である以上、これは当然のことだとい えるでしょう。しかし一方で、市場や顧客に対する支配力を手に入れなければ、顧客への貢献機会を失うというリスクにさらされてしまいます。組織が持つ資源 は限られている中で、有効な活動を行おうとすれば、すべての顧客ニーズに応えるわけにはいきません。状況に応じて市場や顧客を切り捨てる英断もリーダーに は求められるのです。リーダーは、市場や顧客と向き合うシーンで常にこの「受容vs支配」という葛藤を抱えることになります。

■対立事項(3)「短期vs長期」・・・目先のことだけでは将来の成功はない

 これはリーダーが採用する時間軸に関する葛藤です。

  現在の利潤を最大化するためには「現在の市場や顧客への深耕」を追求し、すべての資源をそこに投下することが正しい判断だと言えます。しかし、将来の利益 創造を考えると、「新商品開発」や「新規顧客開拓」或いは「既存事業の変革活動」にも一定の資源を割かなければなりません。

 短 期利潤の追求だけでは将来の環境変化への備えが不十分になり、結果的に後で大きなツケを支払わなければならなくなるからです。逆に、中長期視点に偏ると、 現在の利益を逃し足元を揺るがせる結果に陥ってしまいます。足元が揺らげば、そもそもその組織にとって将来がやって来ることはないでしょう。このように、 相克する短期利益と長期利益をどのようにバランスさせるのか、リーダーは常に自覚的な選択をしなければならないのです。


■対立事項(4)「論理vs感覚」・・・感性の奥に潜む合理性をもつ

 これは、物事の判断基準に関するリーダーの葛藤です。

  物事の判断にあたっては、事柄に関する情報を収集して「論理や合理」を軸に判断を下さなければなりません。しかし、その一方で時には「感性や感覚」でブ レークスルーすることも大切です。論理や合理によって導き出された「正解」は、多くの人の理解を得やすいというメリットがありますが、往々にして独自性に 欠けることが多いからです。逆に感性や感覚だけの「決断」は、永続性や再現性に乏しく多くの人々の納得を得るのが難しいといえます。

 「論理vs感覚」という葛藤問題も、リーダー自身が自分の特性を十分に理解した上で、上手に使い分ける器用さが必要です。「論理に裏付けられた感性」や「感性の奥に潜む合理性」こそ、継続的に人々を惹きつける最高の芸術活動なのです。

■対立事項(5)「分化vs統合」・・・分化と統合をどのように図るか

  これは組織管理におけるリーダーの葛藤です。組織をデザインする上で、その規模の拡大に伴い専門分化を進める必要性が増してきます。リーダーは業務効率を 高めるために、一定のグループや個人の専門分化を図らなければなりません。しかし、その一方で分化の度合いに比例して組織全体の意識統合(一体感)が弱 まってきます。

 リーダーは適切な分化を推進しながらも、その逆張りとして全体統合に向けた施策も強化しなければなりません。全 体統合を怠ると組織がバラバラになるし、分化を怠ると組織拡大のスピードが鈍ります。優秀なリーダーは、分化と統合の絶妙な繰り返しで組織を拡大発展させ るのです。


 以上のように、相対立するものを統合するというリーダーの行動は、単に「中間をとる、バランスをとる」と いうことではなく、もっとダイナミックなものです。状況に応じて自覚的に「時には右に、またある時には左に、大きく振り子を振りながら、ある一定の時間軸 の中で、ある一定の空間全体としての大きな統合を図る」というような理解が正しいのでしょう。

 振り子を「いつ振るのか」「どちらサイドに振るのか」「どの程度振るのか」「どのような方法で振るのか」を見極めて的確に実行することは、芸術的活動という以外の表現が見当たらないと私は思います。

 繰り返しになりますが、リーダーの選択可能性は無限に存在し、「正解」は誰かが与えてくれるものではありません。ここで述べたような、相矛盾する二項目を統合していくプロセスにこそリーダーシップのスタイルが存在し、リーダーの真価が問われるのです。

  更に、リーダーは成果を追求する中で、様々な葛藤に直面しながら自らの責任において決断し、その決断を全力で実行することが求められるといえます。なぜな ら「振り子を右に振る」「左に振る」という決断は、その決断を下した瞬間に「正解」とか「不正解」が決まるものではないからです。最も大切なのは、自らが 下した決断が、後々になって正解だったと言えるような結果に導くことでしょう。そのためには、決断した事項を徹底的に実行することです。そうでなければ、 自らの決断の「正解」も「不正解」も検証できなくなります。決断の実行場面においてすべてのエネルギーを投入した結果、「こちらに振る決断をして良かっ た」と思える結果を出す、そういう結果を出すためのリーダーの腹括りと牽引力が最も大切なのだと思います。

 決断なきリーダーシップは最低であるが、実行なき決断もまた、最も避けなければならない愚行なのではないでしょうか。

人を動かす、五つの力

 ビジョンを描き、その実現のために様々な矛盾を統合することがリーダーの役割であり使命です。そして自らの責任において決断を下し、成果に向けて組織を導くことが求められます。

 その際、リーダーにとって不可欠なものが「影響力の発揮」です。リーダーシップとは突き詰めるとメンバーとの相互作用です。リーダーを震源地とする相互作用を組織内に創り出せなければ、リーダーシップを発揮しているとは言えないでしょう。

 私も長年、管理職を経験する中で、リーダーに最も必要なものはメンバーへの「影響力」だと確信するようになりました。

 今までご紹介したような、
 ・自らが描いたビジョンを発信して人々の共感を集める
 ・ビジョン実現のための戦略を描き、それを実行に移すべくメンバーから望ましい行動を引き出す
 ・ビジョン実現のために、各プロセスで直面する様々な対立事項を統合していく
 リーダーのこのような活動は、人々に一定の影響力を発揮しなければ成立しません。優秀なリーダーは例外なく強い影響力を発揮して人々を感化します。そしてメンバーを動かしていくのです。

 では、いったいリーダーの影響力の源泉とはどのようなものがあるのでしょうか。ここではリーダーが発揮すべき影響力、その5つの源泉についてご紹介します。

■影響力の源泉(1)「専門性」

  メンバーに「すごい」と思われるリーダーです。私たちは、一定の分野の専門家の助言や指導を素直に聞き入れます。例えば、プロゴルファーにゴルフのスイン グを教わるときに、反論するする人はほとんどいないでしょう。クラブの握り方からスイングの仕方まで素直にプロの指導に従うはずです。また、医者からの指 示は積極的に受け入れ、処方された薬をほとんど何の疑いを抱くこともなく飲んでいます。これらはプロゴルファーや医者というある分野の「専門性」に対し て、私たちが一定の信頼を置いているからです。

 このように考えるとリーダーが人を動かす場合にも、「自分たちを取り巻く環境に精通している」「当該業務の権威である」「メンバー以上に経験が豊富である」などの、メンバーから見た「専門的信頼」が影響力発揮の前提となるということが分かります。

 すべての領域でメンバーを上回る専門性を身に付けようとすることはナンセンスですが、リーダーシップを発揮しようとするならば、何らかの専門性を身に付ける必要があります。

 人は、自分が認める分野で高い能力や豊富な経験をもったリーダーから影響を受けます。そしてその指示を受け入れて、自らの思考や行動を変えるものだからです。

■影響力の源泉(2)「人間性」

 メンバーに「すてき」と思われるリーダーです。私たちは、先の「専門性」とは別に、人間的に魅力のある人からの指示を受け入れる傾向があります。では、私たちはどのような相手に人間的魅力を感じるのでしょうか。

 人間的魅力を形成する要因は大きく分けて四つあります。

 第一に「身体的魅力」です。顔立ちや表情、髪型から服装やスタイルにいたるまで、私たちは外見的な魅力によって相手に好意を抱く傾向があります。

 第二に「態度の類似性」が挙げられます。これはある特定の事象に対する「賛成」や「反対」という態度が自分と似ている人に共感を覚えるという傾向を指します。巨人ファン同士が仲良くなる、喫煙者同士が親密度を増すなどがこれにあたります。

 第三は「相手からのポジティブな評価」です。人が自分のことを認めてくれる相手を好きになるというのは自然な感情です。自分に対して高い評価を下し、ポジティブに受け入れてくれる相手には、人間的魅力を感じてその人から影響を受けるものです。

 第四の「空間的近接」も人間的魅力を高める要素として欠かせません。耳慣れない言葉ですが、日常的な表現に置き換えれば「身近な存在」というように解釈できます。よく顔を合わせる(接触頻度が高い)人や同郷の人に親近感を覚え、人間的魅力を感じる傾向があるものです。

 もし「専門性」に欠けるリーダーであるならば、ここで述べた「人間性」という影響力を手に入れるために、自らを磨き続ける努力をしなけれならないのです。

■影響力の源泉(3)「返報性」

 メンバーに「ありがたい」と思われるリーダーです。私たちは恩義を感じている人に対して、どうにかしてその相手に報いたいという心情を抱きます。いわゆる「借りを返したい」「期待に応えたい」という心理のことです。

  例えば、暑い中、遠方から何度も足を運んでくれたセールスパーソンから何か買ってあげたいという心境になった経験は、誰もが持っていると思います。また、 多くの人が抱く「親孝行をしたい」という気持ちも、両親に対する返報性の心理がその根源にあるのです。相手のために一生懸命に尽力するリーダー、親身に なって相談に乗るリーダーは、その相手に対して一定の影響力を発揮します。私たちは、自分が借りを感じている相手を受け入れ、貢献したいと考えるからで す。

 仮に、あなたが「専門性」や「人間性」に自信がなくても、「返報性」を追求することで、人々への影響力を高めることは十分に可能なのです。

■影響力の源泉(4)「一貫性」

 メンバーに「ブレない」と感じさせるリーダーです。私たちはリーダーの一貫した態度 に大きな影響を受けます。リーダーが掲げるビジョンが揺るぎなく、そのビジョンを実現するための戦略が明快で、戦略とリンクした決断を下し、その決断と日 常の言動が一致している。私たちは、そのような首尾一貫したリーダーの姿勢に強く感化され、自らの行動を変化させる傾向があります。

 例えば、「顧客重視の姿勢でクレームを撲滅する」「実力主義で人材の抜擢を行う」「全国展開で事業の裾野を広げる」など、自らが掲げたスローガンに対して徹頭徹尾ブレることのないリーダーの姿勢は、人々を強く巻き込む力を発揮するものです。

  一貫性のあるリーダーは、常に同じ事を繰り返し言い続け、どんな時でも判断軸が変わりません。リーダーに一貫性があると、メンバーはリーダーに相談する前 から、「きっとこの件に関して、リーダーは○○と答えるだろう」という予測がつきます。そして、自分自身の言動をリーダーが導く方向に同化せるのです。た とえ、リーダーに「専門性」や「人間性」「返報性」など他の要素が欠けていたとしても、人は「一貫性」のあるリーダーに強く惹かれるのです。

■影響力の源泉(5)「厳格性」

  メンバーに「怖い」と思われるリーダーです。私たちは、恐れを抱いている人には素直に従う傾向があります。マキャベリは『君主論』の中で次のように述べて います。「君主は恐れられるよりも慕われるほうがよいか、それとも逆か。人はそのいずれでもありたいと答えるであろうが、それらを併せ持つことはおおそ困 難であるから、二つのうちの一つを手放さなければならないときには、慕われるよりも恐れられていたほうがはるかに安全である」と。ある意味「恐怖心」とい うものに逆らえない人間の弱さを現実的な目で見極めた、15世紀の思想家の含蓄ある記述です。

 確かに、リーダーシップを発揮す るには、ある程度人々から畏怖の念を抱いてもらう必要があります。これは、恐怖政治を意味するのではなく、信賞必罰を迷いなく実行できる「怖さ」「厳し さ」と捉えていただきたいと思います。「怖さ」「厳しさ」を持ったリーダーは組織において強い影響力を発揮し、成果に向けて組織を統合する力を持ちます。

  ただし、リーダー自身が誰よりも自分に対する厳しさを持ってはじめて、「厳格性」の本当の影響力が発揮されるのだということを付け加えたいと思います。そ の時、マキャベリの言うように、時に他の4要素「専門性」「人間性」「返報性」「一貫性」を凌駕する圧倒的な影響力を発揮することができるのです。


  「リーダーシップを発揮すること」=「影響力を発揮すること」だと考えれば、リーダーはここで述べた5つの影響力の源泉のいくつかを持たなければならない のです。さらに、あなたが一流のリーダーを目指すのであれば、「専門性」「人間性」「返報性」「一貫性」「厳格性」これらのすべてを高いレベルで保有すべ きでしょう。そのために、自分に備わっている影響力の強弱を分析して、自分に足りない影響力の源泉を手に入れるよう努めなければならないのです。

  私もリーダーの役割を担うようになってから、自らの影響力を磨くことに努めました。若い頃は「人間性」や「返報性」を強め、兄貴分的なリーダーだったと思 います。やがて大きな組織を束ねるようになると「一貫性」や「厳格性」が欠かせない要素だと痛感するようになりました。また、メンバーの特性によっても、 影響力の発揮の仕方を変えなければなりません。私は管轄する職場やメンバーが変るたびに、どの影響力の源泉が有効なのかを考え、自分に不足している源泉を みがくことに楽しみを覚えるようになっていきました。

 いずれにしても、人々にとって「すごい」と思える能力や経験を持っている リーダーが、「すてき」な人間的魅力を持ち、「ありがたい」と思えるほど親身で、いつでもどんな時でも「ブレない」一貫性を持って、状況によっては「怖 い」「厳しい」と感じるような態度を示す。そんなスーパーなリーダーは間違いなく大きな成果を生み出します。なぜなら、誰もがこのようなリーダーには、自 分が持っているエネルギーを最大限に捧げようとするからです。

 今回はリーダーシップの条件として、リーダーに求められる行動について2つの切り口からご紹介しました。あらためてこれらのことを意識してみると、自然と今までとは違った視界が見えるようになるのではないでしょうか。

 次回からは、リーダーとして組織の成果を最大化するために、具体的に何をどのようにマネジメントするか、についてご紹介したいと思います。

(2007年2月13日公開)

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