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2007年10月1日
富士通よ、プロセサ開発を止めるな!【記事:前編】
「2010年、新世代のハイエンド・サーバーが出揃う。その時に生き残るメーカーはどこか」。サーバー・メーカーの経営・技術戦略に精通する、ガートナー ジャパンの亦賀忠明リサーチバイスプレジデントと日経BP社の北川賢一コンピュータ・ネットワーク局主任編集委員が徹底議論。日経コンピュータ10月1日号の特集「サーバー・メーカー、生き残るのは誰?」のために、2時間にわたって繰り広げられた亦賀・北川対談の全貌を2回にわたって報告する。
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北川(賢一、日経BP社コンピュータ・ネットワーク局主任編集委員) 日本の ユーザー企業がどのぐらい認知しているかは別として、ハイエンドサーバーを見たときに、プロセサ・テクノロジー面で新世代に入りつつある。そうした中、国 産メーカーはどうなっていくのか。ユーザー企業はどう考えていくべきか。このあたりを考えたい。まず、サーバーの世の中が変わってきたというあたりから話 してもらえますか。
亦賀 (忠明、ガートナー ジャパン リサーチ バイスプレジデント) 私なんかより、北川さんは正直どう思いますか、サーバーについて。
北川 いや、あなたが一番物知りなんだからさ。
亦賀 ハイエンドも含めて、サーバー・ハードウエアなんて、もういらないのじゃないか。このくらいのところからベンダーもユーザーも考える時期ではないかな。ベンダーにとってハードは儲からない。ユーザーもメインフレーム時代のようには重要視していない。
北川 ハイエンド・サーバーだけは残るんじゃないのかね。ハイエンド以外はちょっと分からないけれど。
亦賀 日本でハイエンド・サーバーは必要なのか。そこから議論したい。
箱のばらまきは終わった
北川 統計データで見ると、ガートナーはどういう見解なの。
亦賀 統計的に、日本におけるハイエンド・サーバーの需要は世界のそれと比べて低い。
北川 1億円以上のサーバーという意味?
亦賀 1000万円以上のサーバー。日本の需要はアメリカに比べて全然低い。
北川 日本のお客さんのサーバーやストレージの装備率を見ると、失礼ながらプアだからねえ。それにローエンド・サーバーの性能が上がってきている。ローエンドで足りる処理能力しか使っていないのが日本のお客さん、ということかな。
亦賀 そう。真面目にリソースを計算しますからね。必要な分だけローエンド・サーバーを買い増しする。そのサーバーをちまちま使う。
北川 需要がないとハイエンドの将来を占ってもどうしようもないか。
亦賀 だから何で日本に需要がないかという話を先にしたいと思ったわけ。もっともこれは技術論ではなくて、経営の問題でしょうね。
北川 簡単に言うと、日本はローエンド・サーバーをまだばらまいているからでしょう。でもこれは、ベンダーの戦略が嫌らしいから。散々、分散といって、サーバーをばらまいてから、これからは統合だっていうんだから。
亦賀 面白い数字があります。今年の第1四半期と第2四半期、日本のサーバー市場は非常に悪かったんですよ。台数、成長率、ともに過去 最悪。つまり、箱(サーバー)のばらまきが終わったということです。ユーザー企業が、「バラバラのサーバーはやっぱりよくないね」と言って買うのを止め た。といってハイエンドに移行したわけではない。ローエンドもハイエンドも全部落ち込んでいます。こんなケースは初めて。これも「仮想化効果」でしょう か。英語で言うと「バーチャライゼーション・エフェクト」ですね。
北川 ハイエンド・サーバーを買って、ローエンドを刈り取り統合するのが仮想化じゃないの?
亦賀 そうです。「統合しなきゃいけない」ってみんなが言っていた。でも、その受け皿というのは、実はそれほどはっきりしたものがないわけですよ。サーバー統合は大事とか、仮想化は大事と言うけれど、統合する先のサーバーが明確になってないんです。
日本とアメリカ、サーバー利用の相違点
北川 それもあるかもしれんが、日本とアメリカではサーバーの使い方が違うんですよ。風土というのか。僕はそう見ているけどね。
亦賀 風土?
北川 風土というか、カルチャーというか。アメリカは中央集権的 で、IT予算はIT部門が全部仕切るでしょう。業務部門で分散してIT投資をすることはあまり許さない。つまり、ITガバナンスが利くわけですよ。日本は 事業部制だから、事業部単位で予算を持っている。以前、フォレスターリサーチだったか、ガートナーだったか、米国の資料を見たけれど、日本の情報システム 部門が握る予算は、世界全体のそれと比べて一番低いんだよ。つまり日本は事業部で勝手にIT予算を使っている。そういうカルチャーなんだよ、会社の仕組み が。事業部にとっては、事業本部長が社長なんだから。すると、事業部に入るコンピュータは、ハイエンドなんていらない。ベンダーが言うように、統合、統合 と言っても、日本はそんなに必要がないと思うんだよね。
亦賀 今のままだとそういう傾向がありますよね。現場に任せるカルチャーとかいうのが。
北川 もっと言うと、日本のコンサルタントはあまり言わないけれど、アメリカはすぐ「全体最適」って言うでしょう。日本は部分最適ですね、それを変えましょうって。そのためには、でかいコンピュータを入れて、ERPパッケージを入れてとかと言うけれどね。
アメリカの企業というのは、例えば物づくりを考えても、部品から作っているわけじゃないんだよ。彼らは組み立て企業なんだ。垂直統合ではない。だ から彼らにとって、一番重要なのはサプライチェーンとなる。サプライチェーンの仕組みを作るためには、取引客も含めて全体最適をやってもらわないとできな いわけですよ。
日本はさっき言ったように、事業部であり、製造業といっても多種多様だから、全体最適よりも部分最適がはまりやすい。これは変わらない。日本で全 体最適にすべきなのは、ERPの財務だけでいい。あとは全部、事業部に任せればいい。これは特に、製造業では変わらないと思う。
亦賀 まあ、カルチャーでいえばそうなんだけど。
北川 そうした背景があって、ハイエンド・サーバーまで必要なのか、ミッドレンジでいいのか、ローエンドなのかとか、という論議になるという気もする。
1社に1プロセサで済む時代
| ガートナー ジャパン リサーチ バイスプレジデントの亦賀 忠明氏 (写真:新関 雅士) |
今、まさにプロセサのパフォーマンスが再び上がってきているわけですよ。だから、サーバー統合の背景には、プロセサの性能向上があることを、やっ ぱり経営者の人は知らなきゃいけないですね。これまでは、プロセサの性能がそれほど出なかったから、1個のプロセサにまとめることはできなかった。今ある サーバーで、全社のサーバーをまとめるような製品を買おうとしたら、すごく高いし、すごい仕組みを用意しなくてはいけない。
でも、よくよく見渡してみれば、すごくプロセサの性能が上がってきて、サーバー統合ができるようになったということですよね。それを利用し、もの 凄いスケールの事業を展開し、世界で勝つ、ということも可能になった。典型例はグーグルですけれど、ああいうビジネス・スケールを取って世界競争で徹底的 に勝てる時代が来た。テクノロジーにはそこまでのインパクトがある、と考えて、企業の中にそれをどう取り入れていくか。経営者はそこを考えないと。カル チャーだからこうなんだ、と言うだけではねえ。
北川 とはいえサーバーを部門単位で置く傾向は変わらないんじゃないのかね。
亦賀 そういうケースもありますよ。例えば、グローバルな企業で、ある特定の地域のデータセンターにデータを格納しているとする。そう 言うケースでは、データの一部を手元に置きたいという人が多いですよ。ただ、部門ごとにサーバーを置くのはやっぱり減っていくでしょう。どうしても置きた い人がいることは分かりますが。
北川 さっき言ったように、部分最適が日本の強みなんだから、この傾向は なくならないと思う。部門ごとにITを装備する傾向は変わらないよ。IBMは、世界に巨大なデータセンターを5つ用意して、そこに顧客のデータを全部収め るんだとか勝手に言うけれど、そういうのにお客さんは乗らないよ、特に日本は。
この前、アメリカからSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)大手のセールスフォース・ドットコムの上級副社長が来た。彼は元商務省にいた 役人で、日米の経済の代表にもなったことがある凄い人物なんだ。その人が日本に来て、盛んにSaaSのいいところをアピールするわけ。世界に1個所、プ ラットフォームがあれば、これで事が足りるって。
じゃあ、あなた、もしchinaにプラットフォームがあって、データセンターがあって、それをアメリカの企業が使うのかって言ったわけ。つまり、 データの保全の問題を忘れていますよ、と。日本の場合、データの保全に関してアメリカを信頼しているとは思うけど、そういう問題が出てくると思う。いざと なったら、全部データを取られちゃう。そういうリスクも考えなきゃいけない。だからもう少し柔軟に対応すべきだと思う。アメリカにデータセンターがあって も、日本にサブのセンターを用意する。日本のお客さんはそこにデータを置けばいい。
つまり、テクノロジーの問題と、そういうお客さんの心情とか、制度とか、そういうのは全部違うからね。テクノロジーは万能じゃないよね。
サーバー統合の受け皿を作れ
亦賀 もちろん、テクノロジーはよく見極めないといけない。ところが、ベンダーもユーザーも、サーバー統合に関心があるんだけど、その 受け皿となるサーバーにはあまり関心がない。というか、そこがクリアになってないですよね。報道も含めて、情報が足りない。ベンダーもずれている。
さっき受け皿の話が途中になってしまったのでぜひ続けたいのだけれど、例えば、ベンダーのサービス部隊の人がサーバー統合を語るとする。その時、 受け皿の議論がそっくり抜けているんですよ。レガシーマイグレーションのときから、それをずっと感じていた。受け皿となるサーバーの議論をしないで、マイ グレーションをしましょうとか言っても、とてもじゃないけどみんな怖くて動けないですよ。そこには、受け皿となるサーバーがあるんですかと聞いても、何か あるような、ないようなという話をする。みんなそうなんです。メインフレームを継続できないなら、これが受け皿です、トランザクション処理もデータベース 管理も信頼性もこういう風に代替できます、と言ってくれないと。
引っ越しをするなら、どうやって行くのか議論するより、まずどこへ行くのかを考えるのが普通じゃないですか。マンションから一軒家に移るとか、六本木ヒルズに引っ越すとか。どうやって行くかは二の次ですよ。
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| 日経BP社 コンピュータ・ネットワーク局主任編集委員の北川 賢一氏 (写真:新関 雅士) |
北川 なるほどね。ただ、受け皿というのも多様にならないかな。ここ最 近、地球温暖化に関連してグリーンITとかが話題になっているでしょ。これまでサーバーは、コストパフォーマンスという経済原則だけで議論されてきたけ ど、今後はみんなが一緒の方向に進むのではなく、エコロジーを意識した使い方とか、ばらけてくるんじゃないかと思うんだよね。特に日本は、今までアメリカ 一辺倒で全部教えられてきたけど、日本独特のサーバーの使い方が出てくるかもしれない。
亦賀 MIPSだけでいったら、それはそうですよ。
北川 MIPSというか処理能力に対する単価は、昔は小型メインフレームより大型メインフレームの方が安かった。だからみんな大型機をどおんと導入した。今は大型の方が高いんだよ。
亦賀 高い。
北川 だから、処理能力に対する単価が低いローエンド・サーバーが持てはやされた。
亦賀 確かにハイエンド・サーバーに関してはいくつか検討項目がある。一つは信頼性。信頼性が99.999%とか、99.9999%と かね。一方、コストに着目すると、ローエンドは今、数万円ぐらいですよね。みんな一生懸命、数万円のサーバーを作って、3年間保証付きでだーっと売る。ハ イエンド・サーバーは億円単位じゃないですか。これだけの差がある市場ってあまりない。時計ぐらいかな。下がただ同然で、上が何億円という製品は。
北川 確かにね。
亦賀 これほどコストに開きがあると、よほどうまく説明しないと、顧客に違いが分からないですよ。何でこれが億円なのか。何億円ですよ。この価格差に対する明確な説明は、この何年間ほとんど聞いたことがないです。
北川 それは、大手ベンダーがハイエンド・サーバーで儲かるようにしているんだよ。つまり車と同じで、トヨタのレクサスだって高いでしょ。それと同じことなんだよ。
亦賀 いや、レクサスだったら、高いなりの説明があって、みんな認識するじゃないですか。
北川 IBMが先導しているんじゃないかな。もっと安くできるんじゃないの?
亦賀 いや、高い理由の一つは信頼性ですよ。
北川 その仕掛けが入っていると言う意味で?
亦賀 そう。信頼性の仕掛けと、あとは保証。やっぱりコミットしなきゃいけないですから。
北川 それは自動車にも言えるね。
亦賀 信頼性という要件は消えないですから、未来永劫。特に多くの人が使うシステムだったら止まってはいけないわけで、「やっぱり1億円払いましょう」ということになる。それをサーバーなのか、システムと呼ぶかは別な議論だけれども。
北川 でも、安いサーバーを並べても、ソフトウエアでちょっとコストをかければ同じような信頼性も得られるようになっているでしょう。
亦賀 それは無理。パソコンを見れば分かるでしょう。100%は無理です。日本ユニシスがWindowsで構築した百五銀行のシステムは確か3年かけた。そんな簡単にできたわけじゃない。工数をかけて、徹底してやって成し遂げたわけ。
北川 Windowsサーバーを使ったから苦労した?
亦賀 Windowsを搭載したES7000で勘定系システムを作ろうと挑戦した。それは簡単じゃない。要件は信頼性なんですよ。信頼性を高めるには工数やコストがかかる。国産ベンダーに限らず、HP、サン、IBMは、この辺りをもっともっと説明していかなくてはいけない。
ユーザー企業も、なぜコストがかかるのか聞くべきなんです。ただ、ユーザーからちゃんと言うルートがない、日本は。ユーザーの現場ではメーカー担 当者に言っているかもしれないけど。それすら最近は言ってないかな。だからもう現場の人はマシンを替えないんですよ。替えてもリスクだけになっちゃうから 替えない。昔のメインフレームが残る理由は、まさにそういうことじゃないですかね。
IBMのサーバーは“融合”する
| (写真:新関 雅士) |
北川 ここに面白い資料があります。IBMの四半期ごとの対前年度同期比 の売り上げの伸びを記したグラフです。System zとSytem pのグラフを見ると、System zが伸びるとSystem pがへこみ、pが売れるとzが伸び悩んでいた。だけど、2006年からはほぼ同じカーブになった。
亦賀 それまでは、同じユーザーをzとpで食い合っていたという感じですよね、グラフの波がちょうど反転している。
北川 そうそう。
亦賀 2006年以降はユーザー層が変わり、食い合いが終わったんでしょう。
北川 メインフレームもサーバーも差が無くなったということじゃないかなと思うんだけど。
亦賀 そうですよ。IBMは2000年ぐらいからメインフレームをサーバー化し始めて、もうすでに7年ぐらいたっている。もう少しで10年になる。
北川 それがここでようやく落ち着いたと。
亦賀 メインフレーム上でSOA(サービス指向アーキテクチャー)をやると言い始めたのが2005年ごろから。今、IBMがやっているのは、本当にオープン・サーバー戦略です。オープン・ハイエンド戦略ですよ。
北川 こうなると、zかpのどちらかあればいいんじゃないのという気もするけど。
亦賀 IBMはzに対してPOWERのテクノロジーを近い将来、投入してきますよ。一方で、zの信頼性をpに移植していく。
北川 そうだよね。目指すところが同じなら、このグラフを見る限りpが死に筋ということかなあ。
亦賀 pが死ぬと言うわけじゃないけど。
北川 iもだめなんだな。つまり、POWER系はだめになる?
亦賀 いやいや、POWERのテクノロジーをzに入れていくんですよ。ブランド的になくなるかも知れないがPOWERのテクノロジーは残る。zと呼ぶのかPowerというのか、共通技術のプラットフォームにどんなOSでも載せてくるから死ぬわけではないでしょう。
北川 結局、IBMのサーバーはどれも同じになってきているということか。この後はどうなるか知らないけど、ひょっとしたら……
亦賀 融合しますよ。
北川 融合か。そういう言葉がいいね。死ぬと言ったらちょっと嫌だな。サーバーの融合で、IBMのラインがすっきりしていくんだ。
亦賀 そう。日本IBMも来年、System zの戦略をもっと展開するでしょうし。
北川 結局はメインフレームのzだけになるんじゃないの?
亦賀 だからさっき言ったじゃないですか。メインフレームのプロセサをオープン化しているって。
北川 昔はメインフレームしかなかった。そうした単純な時代に戻るということか。
亦賀 オープンテクノロジーによるメインフレームが残っていく。これをメインフレームというかどうかは別として、アメリカ流の合理的な戦略だとそうなる。
北川 zがどんどん他のサーバーを統合して、インテルのx86プロセサを 使うサーバー(System x)も食っていく。他社のサーバーかもしれないけど。この間、IBMが自社保有のサーバー3500台、切り上げてざっと4000台のサーバーを30台のz に統合したと自慢していた。xの需要はどうなのかとか、pの需要はどうなのかとか、いろいろ議論の余地はあるんだけど、結局は、「融合して最後に生き残る のはzですよ」という、メッセージを出したんじゃないかな。
IBMの前のCEO(最高経営責任者)のガースナーは2000年の年次報告書で、お客様の電算室はいらなくなる、サーバーもいりませんと主張して いた。つまりSaaS流のプラットフォームの統合を示唆している。20数社の巨大なサービス・プロバイダが世界を牛耳ることになる。それだけあれば十分だ と。IBMは、サービス・プロバイダーにサーバーを売る会社であると同時に、そういうサービス・プロバイダの1社になりたいとある。
亦賀 昔からユーティリティって言っていたけど、電気やガス、水道と同じように、プロセサ・パワーを必要なときに使いたい分だけオンデマンドで利用できるようになる発想ですね。
北川 ネットワークの発達がすごいからね。
亦賀 そういうことです。だから、電力会社と同じようになりうる。
北川 そうなると最後まで残るサーバーはzなんだよ。堅牢性があって、性 能も出るし、MVS資産が生きているし、仮想化はIAサーバーのように付け足しではなく、ネイティブにある。来年登場するzはz6と言われ、1プロセサ (クワッド構成)あたり軽く1000MIPSを超す。それが数十台、疎結合シスプレックスだと数百台統合できる。とてつもないパワーを発揮する。
亦賀 プラットフォームについては、自分たちが井戸を掘る必要はなくなる。無理して井戸を掘らず、水道を利用すればいい。
サンの挑戦、その成否
北川 IBMはそういう方式でいくよね。じゃあ、HPとサンはどうするか。日本のメーカーはどうなのか。
亦賀 HPは以前から、2010年のビジョンは次世代データセンターと言っています。
北川 でも、HPはそんな巨大なプロセサは持ってないよね。
亦賀 ですから、x86ブレードを積み上げてシステム化する。
北川 なるほど、それからItaniumもあるね。サンは開発中の次世代プロセサRock(開発コード名)で勝負か。あれもでかいプロセサだよ。
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| (写真:新関 雅士) |
亦賀 確かにでかいです。ただ、異なるタイプのプロセサです。粒度が小さいWeb時代のトランザクション向け。それを狙って彼らは Rockを出してきます。サンは随分前から、Web時代のトランザクションは大量だが粒度が小さい、だからそれ用のプロセサをたくさん並べたら早く処理で きると主張していた。
サンが最初に取り組み始めたときは誰にも認知されなかった。今やこういう仕掛けが必要ということは、プロセサの専門家の中では共通認識になっている。サンは先鞭を付けてT1やT2(開発コード名Niagara)を出し、さらに大型のRockプロセサを用意しつつある。
IBMは、粒度の小さい処理についてプロセサ・レベルで最適化する取り組みについて、まだPOWERでやっていません。動作周波数を低消費電力で 速くするテクノロジーを持つから。しかし、今からやる方向のようです。インテルもたぶんそのうちやるでしょう。今はマルチコアに軸足を置いていますが。動 作周波数向上も再開する。2010年ごろには、次世代のプロセサやそれを搭載したサーバーが出そろうと見ています。
北川 今後のトレンドがマルチスレッディングだけとはちょっと考えにくいけど。
亦賀 もちろん、それだけじゃないですよ。プロセサ内に仮想化機能を入れる取り組みも進んでいますし。後は、サーバー・システムをどう やって組むのかが重要になる。そうしたシステムの将来像として、ガートナーは「テラ・アーキテクチャ」を提唱してます。ブレード・サーバーがさらに高集積 になり、大量に積み重なったイメージです。
北川 サーバー単体ではなく、システムとして次世代の要件に対応する方法もあるってさっき言ってたよね。それがテラ・アーキテクチャ?
亦賀 例えば、数十台のシステム構成を前提に作ったブレードサーバーはありますが、数万台で運用できることをうたった製品はない。サー バー統合の受け皿を考えた場合、今後そうしたニーズがでてくる。数十万台のプロセサ・ノードが連携して動作して、それが1つのハイエンド・サーバーのよう に動作する。システム全体で、テラスケールやテラFLOPSの性能発揮や容量確保を実現する。今のブレードよりもさらに集積度の高いプロセサやメモリー・ ノードを用意して、巨大な筐体に差して使う。予備のノードはあらかじめ差しておき、壊れたノードの切り離しは自動で行う。100万個もノードがあったら サーバーAとかサーバーBとかいうレベルではないですから人間では到底管理できない。
北川 それってハイエンド・サーバーというの?
亦賀 だから、ここまで来るとサーバーとは何か、と言う話に戻るんです。
北川 昔は、1個のプロセサの性能が大きいものを搭載したサーバーをハイエンド・サーバーと定義していたよね。今は、上から下まで同じプロセサを搭載している。そうじゃないのもあるけどね。
亦賀 そうなると、ハイエンド・サーバーって何ですか、って世界になるじゃないですか。
北川 なるほどね。
亦賀 100万個のプロセサ・リソースをシステムで賄うのがテラアーキテクチャーの思想です。そうなると、サーバー単体をハイエンドと か、ミッドレンジとか、ローエンドとかで区別する意味がなくなる。システムの規模の違いだけになる。今までは、サーバーの種類によって、信頼性の要件や筐 体内のアーキテクチャーが異なっていたが、今後は基本的に同じアーキテクチャとなり、顧客は必要なプロセサ・リソースを必要な分だけ買うことになる。
今後は基本的に同じアーキテクチャとなり、顧客は必要なプロセサ・リソースを必要な分だけ買うことになる。
これは業界全体の大チャレンジとなる。本当にチャレンジですよ、ブレードの発展系を考慮すれば、どうしたってこういうアーキテクチャになる。それ にただ「テラ・アーキテクチャ」という名前を付けただけ。こうなると単体のサーバーってあまり意味がない。サーバーを一生懸命議論するよりも、この時代に あったシステムを議論をした方が正しい。
北川 だけど、テラ・アーキテクチャのようなシステムが出来上がっても、自家発電機を導入しているユーザー企業などでは、自分でサーバーを購入、運用するわけだよね。
亦賀 テラ・アーキテクチャへの移行はまだまだ先ですよ。2010年なんてとてもじゃないけど無理でしょう。あと10年ぐらいはかかり ますね。だから今、信頼性を重視したシステムにおいてはハイエンド・サーバーは選択肢として有効です。少なく見積もっても5年先ぐらいまでは有効でしょ う。ガートナーとしても、新基幹系システムのプラットフォームを2年前に提唱して、サーバー・メーカーに受け皿をはっきりさせた方がいいと申し上げたけれ ども、明確な答えがなかった。
プロセサとOSがないメーカーの明日
北川 そういう変化が起きているなかで、サーバー・“メーカー”を自認す るなら、やっぱりオペレーティング・システム(OS)とプロセサの両方を持たないと、将来的には厳しいのではないか。仮想化でOSは見えなくなるから、関 係ないという見方もあるけどね。しかし、プロセサの力を引き出すのはOSをはじめとするソフトだから。例えば、OSを持たないと、「ハードをこう変えたの でOSを直して」と言っても「とんでもない」と断られてしまう。両方あればOSに対してハードを最適化できる。IBMとサンは両方持っている。ヒューレッ ト・パッカード(HP)は涸れたOSしか持っていない。
亦賀 今のサーバー・メーカーは、システムメーカーですから。システムの要素をどれだけ持っているか。もしくは持ってなかったら、どこ からから持ってきて、それらを組み合わせて実装する技術を持つかでしょうね。マルチのプロセサコアとスレッディングで、どうやってシステム全体を最適化 し、負荷を配分するか、仮想化も含めてデザインできないといけない。HPが次世代データセンターと言っているのはそういうことです。もうサーバーとは言わ ないわけ。日立製作所もそういうメッセージで仮想化にかなり力を入れている。確かに、プロセサやOSは主要なパートなので、持っているにこしたことはな い。何も持ってなかったら……
北川 この前、AMDの取材に行ったときにいいことを教えてくれた。シン グルコアからデュアルコアへの進化は、半導体技術の革新の成果だと言うわけ。一方、デュアルコアからクワッドコアへの進化は、半導体技術が半分、残りの半 分はソフトウエア技術でパフォーマンス向上を実現したと。つまりソフトウエアが重要だと教えてくれた。AMDは今、マイクロソフトなどのOSベンダーにア ライアンスを持ち掛けている。そうしないとプロセサの機能がうまく出ない。
亦賀 それはそうですね。
北川 AMDによれば、8コア以上になると、パフォーマンスを向上させる ためにソフトウエアに頼る部分がほとんどを占めるという。「じゃあ、あなたたち(AMD)はソフトも作るのね」と聞いたら、「そういうことは当然あるで しょう」と答えた。つまりOS部分にも参画せざるを得なくなっている。IBMのある担当者も同じことを言っていた。コアの数が増えると完全にOSの領域に 入らないといけない。すでにファームウエアやAPIのレベルでは取り組んでいるけど、ハードウエア技術者がもっとOSに近づく必要がでてきた。
亦賀 SMPアーキテクチャがどう変化するかも含めて、その流れは避けられないでしょう。昔、NUMA(Non-Uniform Memory Access)とSMP(Symmetric Multi Processing,)で、どっちが良いとか悪いとか議論になったけれど、あれぐらいの変化がまた起こってきているわけですよ。
北川 そういう時代になってくると日本のメーカーもチャンスがある、という気がするわけ。
亦賀 マルチコアやマルチスレッディングのプロセサを開発したり、そのプロセサでシステム全体を最適化してワークロードを配分する技術が求められますね。
富士通よ、プロセサ開発を続けよ
| (写真:新関 雅士) |
亦賀 作る技術はあっても、それを自社の売り上げや利益に結びつけ、競争優位に立てなければ難しいでしょう。単に持てばいいというわけじゃない。
北川 何か1つは持っていることが最低条件だよ。HPもHP-UXを持っている。日立とNECだけが両方ない。生き残るためには、プロセサかOSのどちらか一方を持っているメーカーと協業するしかない。あるいは両方を持っているところと一緒にやるか。
サンの製品戦略を考えると、富士通が作るSPARCプロセサにはまだ可能性があると思う。富士通はサンのSPARCの互換プロセサAPL(SPARC64プロセサ)を作っている。仕様はサンが決めるけれども、開発・製造する力があるのは富士通。
サンのRockは粒度の低いものをばーっと処理するNiagaraの親分。あのマルチスレッドのやり方には短所があって、メモリーとディスク間の データの移動命令ばかりのデータベースや巨大なアプリケーションをフルに動かそうとすると厄介だ。もちろんサンはNiagaraはフロントのWebとアプ リケーション・サーバー向け、Rockはバックエンドのデータベース・サーバー向けと位置付け、Solarisで目一杯工夫するとは思うが、製品が安定し 市場が受け入れるには時間が必要。だからAPLとその後継プロセサは相当先まで需要が続く。
亦賀 ただし、メーカー戦略として考える時、APLがトラディショナルな世界のプロセサであることを認識しておかないと。とはいえ APLは信頼性は高いし、メインフレームのいい点を活かしている。データベースをしっかり処理しようとしたらAPLになるのは分かる。信頼性重視を強調す るItaniumも同じく、新世代プロセサというより、メインフレーム的なところがありますね。
北川 サンはRockで巨大なデータベースを処理するって言っているよ、万能だって。
亦賀 でも、そんなことはないでしょう。データベースはそう簡単ではない。ベンダーは今、難しい舵取りを強いられていて、次世代へ進も うとしているが、市場がすぐ付いてくるのは限らない。だから従来製品もいる。といって、ここばっかりやっていると、将来がなくなるかもしれないという悩ま しさがある。
北川 サンは二頭立てでうまい位置にいるんだよね。
亦賀 富士通がAPLを作ってくれたからね。
北川 ただし契約上、APLは今の2.4GHz(開発コード名 Olympus)に続いて2008年に2.7GHz版(同Jupiter)を出して終わり。これは決定事項。「次もやるべきだ」と秋草さん(富士通会長) にそうぶつけたら、「ちょっと悩んでいる」って言っていた。また盛り返すかもしれないね。
実は、そこから先の4GHz以上のSPARCプロセサは、文部科学省のスーパーコンピュータ・プロジェクト向けのSPARCを応用すれば、数十億 円の追加投資で作れる。しかもサンからAPLの継続を打診されているらしい。サンもあまりにも革新的なRockの“もしも”に備える必要があるんだろう な。以前は2008年秋にRockを出すと言っていたが、「2009年には出したい」にトーンダウンしてきた。サーバーの世界に革命を起こすのは難しいん だろうね。
亦賀 プロセサは、次世代の方向性を見据えて開発しないといけないが、この姿がはっきり見えにくい。マルチコアやマルチスレッディン グ、仮想化、データセンターの新しい形とか、いろいろなキーワードは登場するけど、どうなんだと言われると難しい。あと1~2年すれば、将来あるべき姿が 見えてくる。そのとき、国産メーカーがあるべき姿に気が付いてももう遅い。富士通が今から巻き返そうと思うんだったら、そこを見据えてプロセサを開発しな くてはいけない。
北川 サンは、Rockの製造をTI(テキサス・インスツルメンツ)に委 託しているが、製造委託はそこまで。Rockの次を考えるには、新たな製造委託先が必要だとされている。この状況を考えると富士通としては狙い目かもしれ ない。とにかく作る技術を富士通はもっとアドバンスしなきゃいけない。
亦賀 確かに、作る技術とか、製造能力は大切ですよね。テクノロジーがあってこそITベンダーですから。T(テクノロジー)を離した途端に、I(インフォメーション)だけの会社になる。もちろん、それはそれでいい。ユニシスとかEDSが選んだ道です。
北川 富士通は去年、Itanium2を搭載するPRIMEQUESTをメインフレームの後継サーバーとして決めたでしょう、一応。
亦賀 あれは見直す可能性があるでしょう。
北川 PRIMEQUESTに決めると言うことは、プロセサとOSの両方を持たないということなんですよ。富士通が持っているのはAPLなんだから。
亦賀 ただ、HPほどの事業規模があっても、PA-RISCの開発投資が回収できないと言って、Itaniumに切り換えたわけですか らねえ。HPの経営陣は、プロセサを持たない会社にしたかった。それは、この世の中がインテルのx86とItaniumだけになると判断したからでしょ う。
北川 HP-UXに投資を絞ったわけだ。
亦賀 競争優位にならないものは外す選択と集中戦略でしょう。
北川 それはHP-UXを持っているから言えるんだよ。HP-UXを手放 したら何もなくなる。富士通だって、APLを手放したら同じだよ。日本メーカーで1社くらいはプロセサの開発を続けて欲しいもの。プロセサではないが、富 士通は今はなき長野工場で、IBMの初期CMOSメインフレームのプロセサボードやHPのボード、DEC(現HP)のAlphaサーバーの全ボードの製造 を請け負った実績がある。メーカーの気概を忘れてもらっては困る。



